佐野陽一「眩暈の岸」

GALLERY TAGA 2、2024年3月28日〜4月22日

現代作家画廊個展

鑑賞日:4月5日(金)

 

私の目の前には空間が広がっている。そこには光があり、空気があり、木々や水や人間が作った構造物など、さまざまなものが充溢している。あるとは感じにくい大気も、時には風となって、その存在を示してくる。見るという行為を焦点を当てることに限定しないならば、その大気と光の揺らぎは、無限ともいえる距離を有している。焦点が定まっていなくとも、感知したという自覚がなくとも、目にはその情報が入ってくる。夜空の星を見上げるといい。その距離と時間は確実に存在するのに、体感することはできない。しかし、その距離と時間を超越して目の前にあるものたちを平面上に置き換えてしまうシステムがある。さまざまな事物から反射された過去の光を定着させることによって、かつて私の前にあったはずの距離は消えてしまう。その距離を取り戻すために、消さずに、圧縮する方法はないものか。ある距離のなかで世界は反転しつつ、まだ実体を保っている。そのようなシステムを介在させることで、私がその空間のなかに佇んで、光を、風を全身で感じていたことも、平面に埋め込もう。その光景を実際に体験したかった人も見ることになり、私の存在も記録されることになるから。