中平卓馬 火―氾濫

東京国立近代美術館、2024年2月6日〜4月7日

現代物故写真家回顧展、国立美術館朝日新聞社共催単独開催。

鑑賞日:3月26日(火)

 

彷徨う時になにを見ているのか。彷徨うことが自らの生の証としている時に。見たものすべてが自分自身となるというのだろうか。しかし見ているものは即座に次の光景によってかき消されていく。その移ろいを、視覚的にとどめなくてはならない。彷徨い、移ろうことが、生きるということだから。と言いつつ、自問する。視覚的に固定されるということは、どういうことか。その固定されたものは、何を現すのだろうか。表さずに現れるものを信じる。それは光景の背後から出現するに違いない。即物的であればあるほどに。即物。物に即する。目の前にある世界。それは物体であり物質である。大気も水蒸気も波も。すべては物として私に押し寄せてくる。私はその物を受け止めなければならない。私は物の隙間を彷徨っているのだから。押し寄せてくる物たちを、私の生のすべてでもって跳ね返さないとならない。でないと、私は物に飲み込まれてしまう。