吉田克朗展―ものに、風景に、世界に触れる

神奈川県立近代美術館 葉山、2024年4月20日〜6月30日

現代物故作家公立美術館回顧展、公立美術館2館巡回。

鑑賞日:5月1日(水)

 

存在は、その存在を明らかにするために影を必要とする。それは光は物体にならないが、影こそが物体として現れるからだ。そのことに何時気が付いたのだろう。その場にいた他の人たちは、光しか見ていなかった。そうではない。影が物体として目の前に現れたときに、人はそれを手に取ろうとする。それは観念的な問題ではなく、ごく日常の人類にとって普遍的なこととして、人は影を見て生きているからだ。人工的な発光体が登場したのは、人類史のなかではごく最近のことでしかない。それまでは太陽が例外としてあるとしても、太陽と月との違いを正確に把握したのはいつのことだろうか。であるならば、私自身も他人にとっては影でしかないことが、浮かび上がってくる。その時に自分の生はどのように確かめたらいいのだろうか。自分自身が物体として存在することを感知するには、肉体的接触しかないだろう。触れることによって、光と影の差分認識でしかない視覚を極力排除し、自分と他者の存在を確認する。その触れた痕跡が、その移動の時間が、生の証となる。