野田哲也の版画-Ⅰ 日々の暮らしの中で

上野の森美術館2021812日〜823

現代作家美術館所蔵品特集展示

鑑賞日:815日(日)


日々消えていく私の影。家族の影。知人の影。夜が来たら影が消え、翌朝新たな影が作られる。昨日の影と今日の影は同じであり、別物でもある。それは影を作り出す人物が、昨日と今日とでは、僅かに、しかし確実に変化しているからだ。帰らぬ日々と自分自身に対する感傷はない。むしろ積極的に緩やかな変化を受け入れている。変わらぬものはないのだから。そこで日々を形に残す。私の形は、その日にあったであろう一瞬であり、実際には起こり得ない光景でもある。日記は記録ではない。私は一日の出来事を情報として記録したり、その情報を集積して後世において分析の対象とすることを好まない。私が作り出す形は、実在しなかった影だ。それぞれの人々の内部に有され、ある瞬間の光景に紛れることはなく、誰も目にしなかった影だ。実態も光もないところから、影を導く。時間になかに手を入れて、あるべき実体を握りしめる。影は断片的にしか捉えられず、また厚みがないので、仮の空間に設えなければ即座に消えてしまう。そこでもう一つ、仮の空間の影を用意する。