野坂昭如『一九四五・夏・神戸』

読書録

 

野坂昭如、『一九四五・夏・神戸』、中公文庫、1977年11月10日発行

 

デザイナー・倉俣史朗が読んでいた本の一冊。太平洋戦争末期の神戸の空襲前から空襲中の出来事が、細部まで克明に描写されている。大空襲までで敗戦はあえて書かず。家庭の人間関係、地域の様子、それぞれの心の内。そして目にした光景。読み進めつつ、ウクライナとガザのことも想像する。

そのなか、野坂昭如が、倉俣史朗と同じ体験をしていたことが書かれている。野坂は1930年生まれ。倉俣は1934年生まれ。倉俣は沼津の愛鷹に疎開していた。

「征夫たちは、飛行機の風防硝子の破片や、超々ジュラルミンの屑、また、B29が電探を妨害するために撒く、錫箔のテープなどをこっそり隠しもち、お互いに交換しあったりしていた。風防硝子は切口を強くこすると甘い香りがたちのぼった、いかに砂糖に飢えているからといっても、香りにつられて硝子を食うことまではしなかったが、煙草のまわしのみをするように、互いに破片を鼻にあてがうのだ。」(228-229頁)