生誕110年 傑作誕生・佐藤忠良

神奈川県立近代美術館 葉山、2023422日〜72

物故戦後作家回顧展、公立美術館巡回共同企画

鑑賞日:68日(木)

 

人の形象を成しているから、それを具象という。figurative とされるものだ。とはいえ、人の形象が別の何かを表すための記号であるとしたら、それは具象なのだろうか。抽象abstract と呼ばれるべきであろう。その時に人体は、世界を表現するための仮の姿でありそこには人間存在についての言及は微かなものとなっていく。世界の原理の模式図が表されているのだから。しかし世界には人間がいる。その存在を無くして、模式図は成立しようがない。人間を人間として表すことなく、世界を抽象しつつ、自らの生をそこに投影する。そのことをなんと呼ぶべきか。それこそが具体concrete ではないだろうか。世界は具体的なものとして存在する。人間一人一人も、身の回りにある事物も、目に映る草木も、すべて具体的なものだ。その具体的なものたちを統括する原理があるとしたら。個別を超えた普遍があるとしたら、そのような問いを立てることは可笑しなことではない。だからこそ人の姿を借りて人でないもの表そうとする。人は世界の一部であり、そこから反転して個人を基点に世界を統括しうる可能性を持っているのだから。