ギャラリー58、2023年5月16日〜6月3日
現代作家画廊個展
鑑賞日:5月31日(水)
体験が身体のどの部分に残るのかは、その体験による。傷のように肉体に物理的な痕が残ることで心理的に体験が持続されることだけを、ここで対象にしているのではない。修練のように、習慣的に身体に沁み込んで、知らず知らずのうちに行動の規範を形作ってしまっていることも含む。この行動の規範は、普段自覚されることはない。規範の外に出ることがないからだ。しかし、否応なく自分の行動を縛り付けているものが確かに存在すると気づく。自分を拡げれば拡げるほど、外部のなにかと接続するほどに、行動の自由は刹那的なものでしかなく、規範は深く目の奥、首筋から四肢、内臓の隅々までを静かに支配していることが明らかになる。
その規範から逃れるためには、規範と同化するしかないだろう。負だとしても正だとしても、規範に則り、そこから目を逸らさずに、世界と向き合う。規範を暴くことで、規範を白日のもとに晒し、無効化する。そのためには長い年月が必要だった。回り道をしつつ、すべての道は繋がって、内なる規範の周囲を巡り続けていたことが、今、ようやく見えてくる。