村野藤吾の建築 模型が語る豊饒な世界

目黒区美術館、2015年7月11日〜9月13日
物故建築家回顧展
鑑賞日:8月23日(日)

ひたすら形をトレースする。縮尺を替え、素材を替え、相似形の輪郭が残る。輪郭と輪郭を接合しより大きな形を作り出す。実際の素材をトレースしているのではないことは、元より承知している。輪郭を移し替え、組み替える作業は、形のトレースから乖離していく。そのオリジナルにおいて、誰もすべての素材が接合され組み上げられる場には立ち会っていない。それは設計者の脳内で仮想された全体であって、現実の物質として存在する全体とは別物である。形のトレースは、追創造でも追体験でもなく、別の新たな体験として、その建築物を相対化する。では、その模型が存在し、それを鑑賞することからは、何が生まれるのだろうか?模型が思考の型を模しているのだとしたら、その思考の型は形にはないのか。模型が何かの形を模しているのであれば、その形を生み出す型はどこにあるのか?その思考という背後の存在を示す抜け殻としての、まさに形としか存在しえない模型。それは、ある出来事の存在を示すだけの情報として機能し、情報として流通する。

村野藤吾の建築 模型が語る豊饒な世界

村野藤吾の建築 模型が語る豊饒な世界