川島清 DOUBLE 銅版手彩色

ギャルリー東京ユマニテ2023529日〜617

現代作家画廊個展

鑑賞日:531日(水)

 

金属の針を持ち、銅の板を傷つける。銅の板の内部は均等ではなく、その粒子は層になって折り重なっている。その薄い、ほとんど厚みのない層の、重なりを目指して、針は銅板の表面に細かな穴を穿つ。穴はいつしか線となり、線は複数の層を行きつ戻りつし、線はやがて表面に帰ってくる。針を握る手と腕の意志よりも、その行為を司っているのは銅板だ。眼は銅板の反応を、確認・分析しているに過ぎない。雨が染み込んだ土の内部を露わにするように、針は銅板の内側を探っていく。そしてできた傷に、黒い油を充填させる。丁寧に整形した畝に注意深く種子を埋め込むように。決して発芽しない種を。そこに種があることにより、銅板の内側へと何ものかが成長していくという、呪術かつ象徴的な幻視が発動する。その幻視は、油が紙に吸い取られ、像が反転することによって、現実となる。幻を現実のものとする秘術のなかで、銅板の傷は役目を終える。癒されることなく、傷は傷のまま放置される。やはりその傷は癒やされなければならない。幻のなかで。そのために色彩という雨が、紙に染み込まれていく。