牧野真耶−ゆるやかな日々−

かわかみ画廊、2017年4月8日〜4月29日
現代作家画廊個展
鑑賞日:4月9日(日)

記憶が、その記憶は映像でなく嗅覚であったり触覚であったりする、物質化して目の前に立ち上がる。その時、記憶は過去のものではなく、今ここにある物質となった記憶は、かつて記憶したものの姿を取らず、物質として記憶を揺さぶり続ける。その物質としての記憶のなかに入っていく。視覚的な奥行きはほとんどない。僅かな厚みを手がかりとして、その固く閉ざされた向こう側へを視線を、感覚を差しむける。物質としての感覚は、物質としての空間と違い、距離を前提としない。記憶とは空間ではない。圧縮された極薄の画面の表面、その物質としての粒子のあわいに、感覚が発生し、記憶が、ないものからあるものへと転換する。記憶は存在を語らない。それは存在を支える空間を語ることがないから。しかし記憶は存在の感覚を露わにする。その感覚を封じ込めることはせず、感覚を常に呼び醒すために、表面は固い。