村上早展

コバヤシ画廊、2016年7月25日〜8月6日
現代作家画廊個展
鑑賞日:8月1日(月)

経験を物質に換えること。経験は時間的なものであり、体感的なものであるため、言語化しない時は、記憶としては曖昧となり、いずれ薄れていく。しかし、言語化されないからといって記憶がないわけではない。その記憶は本人という物質として表象されている。その本人としての物質を、別の物質に置き換える。しかし、それは肉ではない。血でもない。人間の代わりの物質としての何かを差し出すことはしない。肉と血は、押し込められる。図像のなかに。版のなかに。
ある状況のなかでその人は、かろうじて人ではあるが、誰かでないその人は、状況の不条理という現実の前でなすすべなく、現実の一部となってしまうがために、その現実全体が一つの物質として存在してしまう。現実は空間としての体積を持つことなく、質量に変換され、物体に刻印される。