泥象ー鈴木治の世界

東京ステーションギャラリー、2014年7月26日〜8月31日
現代物故作家回顧展、4館巡回、共催:日本経済新聞社
鑑賞日:8月28日(木)

虚ろであることを宿命づけられたもの。表面は表面にとどまり、フォルムを描くも、その実体を持たない。表面こそが実体であることを自覚しつつ、表面がいかにして実体を獲得するかを求める。しかし、視線は表面によって跳ね返され、奥行きを持つことはない。表面でしかないものの表面を操作し、表面を、厚みを隆起させる装置に変える。視線が奥へと浸透することで、仮想の充填物を得て、ものは実体を獲得する。その時フォルムは空間に線を描くものではなく、形の輪郭として現れる。それによってようやく空間の欠如が発生する。手のなかの空間の欠如を補うフォルム。空間のなかの形の欠如を補うフォルム。空間を占有するのは、その体積ではなく表面の厚み。その厚みは無限ではなく、見る人との距離を縮めることもなく、必要十分に裏面に届く。視線はものに近づいていき、その奥行きを測る。形は厚みの仮象となり、世界に放り出された記号の一つとなる。

鈴木治陶芸作品集

鈴木治陶芸作品集