記憶の島―岡本太郎と宮本常一が撮った日本

川崎市岡本太郎美術館、2012年7月21日〜10月8日
物故作家グループ展、単独開催
鑑賞日:9月19日

芸術はすべての人のためのものであり、すべての人が自分のおもむくままに自由に作りだせるから、誰のものでもない。誰のものでもないから、誰も見向きもしない。いつでも自由に作りだせるから、作りだした人も、自分が何を作ったか知らない。自分でも覚えていないから誰も覚えようとしない。覚えるためにあるのではなく、日々の暮らしとともに作り、捨て、作り、そして捨てていく。共同体のための創造物は共同体とともに失われる。共同体は小さく、ほかの共同体との交流は細い。それでも複数の共同体で同じような創造活動が行われているのだが、それは互いには知りようもない。消えていく日常は芸術なのだろうか。消えいていくものは遺さなくてはならないのだろうか。共同体は失われ、記憶は遺る。すべての人のための芸術を語るのではなく、あらゆるところに遍在する芸術について語ろう。芸術は誰にでも可能と宣言することは、芸術が誰のものでもないという前提がある。しかし、実際には、名もない人々の芸術が存在した。存在したといっていいのだろか。誰のものでもない芸術が、捏造したのではないのだろうか。その芸術の側からの論理は、歩く人の耳には届かないのかもしれない。人々は創造し、人々は変化しつつ営み続ける。大きな芸術を振りかざす人間にもそれは理解できていた。自分の大きな芸術を、日々の営みと同じ創造のレベルに引き上げるために。

宮本常一 写真・日記集成  全2巻・別巻1

宮本常一 写真・日記集成 全2巻・別巻1