伊藤敦子展「空に置く」

伊藤敦子展「空に置く」

Gallery SU、2024年7月13日〜7月28日

現代作家画廊個展

鑑賞日:7月20日(土)

 

操作を繰り返すなかで、自ずと発生する物質同士の結合と離散。その姿を観察しつつ、手を止める。その物質が発するメッセージを聴くために。見ることでしか聞き取れない言葉。解釈のコードは不明瞭ではあるが、その言葉は確実に届いてくる。豊かな表情を帯びた物質は、複数並ぶことで、対話を始める。それぞれ単体で発していたモノローグが、複数に飛び交うことでポリフォニーとなり、その意味は偶然通じ合うこともあれば、かみ合わないままでもいる。かみ合ってはいけないのかもしれない。なぜならメッセージは、すでにあるものではなく、無から発生しないとならないから。それぞれの物質が持っていたはずのメッセージは、新たに発生したメッセージのために消えなければならない。いくつもの物質たちは、変容し、配置されることで、その本来の意味を失っていく。その配置される場とはどこなのか。場に意味が合ってはならない。架空の抽象的な空間で、空間としても存在してはいけない。その「ない」場所に置かれた物質たちが、ない場所の背後へと消え行くなかで、極薄いメッセージの被膜だけがそこに残る。